谷川岳〜赤谷川源流〜万太郎山西斜面〜毛渡沢
(2008年3月16日晴れ 新井、星野)
上越国境究極の山スキーオートルート。オジカ沢ノ頭からいったん赤谷川源流に滑り込み、そこから登り返して万太郎山から一気に土樽へ滑降する圧倒的スケールの日帰りコース。体力、技術、気象条件、メンバーシップなどすべてそろうことが成功の必須条件。最近はメディアでの紹介も多く入ってくる人も増えたが、知った当初の自分には到底不可能だと思った。2006年春にワンゲルの会で新井先生と再会、このルートを話題にしてから目標に抱くようになる。学生時代の体力に近づけるべく体重を10kg以上減らし、連夜スポーツと毎週のように山やスキーへ通う。おかげで登山とオフピステスキー以外にテニスとフラット緩斜面カービングスキーの楽しみを知ったし特定保健指導も受けなくてよさそうだ。2007年春は少雪で断念。2008年春に焦点をあわせさらに登り行程が多い山へと出かける。登ることにはいくらか自信がついてきたが問題はいつ実行するか、である。
 例年並みに雪が積もり、移動高がしっかりと張り出して丸一日は晴れてもらわないといけない。3月以前では天候は最悪の谷川岳。連なる他の山が晴れていても谷川頂上付近だけは晴れないことが多い。また4月になると雪が溶け最後の毛渡沢が渡れなくなり徒渉に苦労する。もちろん、晴れるその日がちょうど休日にあたらなくては一人職場の身では出かけようがない。
 それら条件が今回、すべてそろった。この機会を逃してはもう行けないかもしれない。先週の西ゼンで山感覚を取り戻し、最低限必要な道具と食糧を厳選する。谷川岳を通過後には逃げ道はなく、万太郎山への標高差500mの登りを完遂できないと帰ってはこれない。最後の体力温存のため軽量化は大きなポイントになる。
 安全策として電車時間に追われる心配のないよう、車を土樽側におき6:31の電車に乗って土合駅からロープウエイ乗り場まで歩いて登る。不便で不評な上越線ダイヤも新潟側から登る分には案外都合いいのかもしれない。降りた駅は曇り空だが、土樽からみた万太郎山は見事に晴れきっていた。夕方まで崩れるはずはない。7:10のロープウエイに乗り込む。
 用意周到、万全な計画だったはずのところが、いきなりのアクシデントに見舞われその後不安をかかえながら谷川岳から緊張のオジカ沢ノ頭への縦走路をすすむことになる。

谷川岳へ。悩んだ末に選択した天神平からのシール登高で、出発わずか15分後にスキー操作ミスでストックが深みにはまってしまい、バスケット(輪っか)を片方なくしてしまう。しばらく探したがあきらめてツボ足で登る。そもそも谷川岳は最初から最後までツボ足でいった方が早いようだ。西黒沢の亀裂とデブリがひどい。


万太郎山がはるかかなたに見える。しかしあそこまで一本杖でいけるのか?ゲレンデスキーならストックなどなくてもよいがこの大舞台では不安がよぎる。それよりシール登高できるのか?まったく何ということだ。自身の不覚に悔しさでいっぱい。これがもとで失敗したらどうする・・・いったいどうする・・・


谷川岳直下の大斜面。大変気持ちよいゲレンデ。ここまで登って滑るツアーボーダーも多い。


オジカ沢ノ頭1870m(右) あこまでがとにかく第一目標かつ最難所。


肩の小屋1900mへ。谷川岳までの登りはなんてことない1時間半。しばらく春山登山と絶景を楽しもう。

陽気な外人とすれ違う。日焼けがすごい(そゆこと言わないよーに)。Oh!カッコイーネー、ワタシモ5年後スキーデ来ルアルネと(なぜ中国人風)。相変わらず外人はいつでもどこでも軽装。ニッポンはここでも舐められてんねえ。

これからすすむ稜線。本日の先行者はひとりだけのようだ。10時前に出発。トレースはなくモナカ状でときどき深く埋まってしまいすこぶる歩きづらい。

一ノ倉岳、茂倉岳方面。ここから直接土樽へ降りる万太郎谷も雪が少なめ。

稜線は完全アイスバーンで左右とも切れ落ちている。アイゼン、ピッケル必携の世界。ワシの春用6本爪軽アイゼンもコルまでは難なくいける。ただし斜面のトラバースは怖い。無風なのが幸い。中ゴー尾根分岐からのオジカ沢ノ頭。

谷川岳を振り返る。

ここからが最難所。コルから頭への登り。いったいどこをどう登ったらよいのか遠目では見当がつかないが、近づけば案外どこかうまいこと登れるルートが出てくるものだ。

って、そのまんま直登かい!!
12本爪を駆使しての困難な氷壁越えもあり、ワシも何とかクリアできたものの大変に怖い。もう二度と来たくねえよ。

ついに難関を突破しオジカ沢ノ頭到着。谷川から1時間の予定が1時間半かかる。雪の状態が悪すぎた。

そしてこれから目指すは万太郎山。夏道の稜線はおだやか。だが雲行きが怪しくなってきた。しかしホントにもう引き返すという選択枝はなくなっている。天候が崩れるより前にあの頂に到達するのみだ。

稜線の左側、ボウル状の赤谷川源流が本日ひとつ目の滑降エリア。準備している時に3人が後続で到着。2人組は先週平標で最後に新井先生が追い抜いた俊足のスキーヤーとその友人。来週はここに来ると言ってたがホントに来た。福島からだからものすごいエネルギーだ。45歳というからワシとほぼ一緒か。すごいなあ。しかしさらに合流してきたもうひとりの方はなーんと65歳!しかもソロで!!しかもこのコース2度目!!!負けておれんよ、諸君。


さて滑降前に一仕事。難問を解決しておかなくてはならない。ストックを使えるようにすること。限られた手持ちの備品で何とか対処できないか登山中ずっと思案。アポロ13号での作業を思い出すなあ(言っとくが乗ってたわけじゃないよ)。昨日たまたま買ってきたスキーを束ねるためのマジックバンドをぐるぐる同心円状に巻きつけ、それを上からガムテープで補強する。果たして使えるか、そしてどこまで耐えられるか。

11:25滑走開始。おお!すごいすごい。すばらしい雪原。なんというオープンさ。心配していた雪質もやや重めだが普通に振り回せる。特製ストックも問題なくバッチグ〜(死語)。万太郎山を正面にしながらこんなに段差やクレバスのないスノーボウルのまっ只中にいては日本の山だということを忘れてしまいきっと誰もがこう叫ぶ。欧米かっ!!

ドロップイン地点の稜線を振り返る。65歳のスキーヤーが後から。

スロープをカービングターンで一気におりると谷底になり傾斜はかなり緩くなる。進まなくなるがさすがに体重をかけて漕いでいくのは不安なためストックは壊れてない片方のみ使う。

多少苦労しても来た甲斐が十分にある。人工物が何ひとつ見あたらない異次元空間。

人知れず山の奥にポッカリ広がる静寂無風無木立の幻想世界。それが赤谷川源流だ。オジカ沢ノ頭方向。

雪、雪、雪。どこまでも雪。

赤谷川屈曲点着。あの遠い稜線から来た。30分かかった。記録では10分程度でも来られるらしい。

わずかな休憩ののち、いよいよ最後の試練、万太郎山まで頂上をにらんでの標高差500m登り開始。

登りやすい沢だがいかんせん下肢筋は疲労の極限状態。オジカ沢へのツボ足で疲れすぎたようだ。スキー登高で体重をかけるバランスを崩すたび負担のかかる側で足がつる。全然鍛え方が足りなかったなあ。

最初の急登からやや傾斜がゆるむところで右手に尾根をめざす。滑り降りたルートを振り返る。(画像クリック)

逃げも隠れもできず登りしかない。

景色はすばらしい。せっかくだから新井先生には先にすすんでもらいゆっくりと楽しもう。

頂上が近づく。やっぱり大明神の接近とともにいつしか雲が消えてものすごい青空に。もはや天照大神としか思えない。

登り返しはじめて30分。小尾根は笹がでている。ここからはなんと笹の上をスキーシールで登る羽目に。だが意外とシールがよくきき滑らないから登れるのだ。大障子ノ頭を見る。

何度もきたルートを振り返る

そしていよいよ頂上へラストの急斜面にあえぐ。足がどうにもならない。下肢筋全体がつるなんて感覚は初めて。

数歩登っては筋肉疲労の回復を待つ。腰をおろして休む場所はない。徐々にではあるが高度は確実に上がっている。国境稜線の東俣ノ頭も見えてきた。あとわずか。気力のみだ。

頂上はそこだ

登り返し実働1時間半、14時を過ぎついに登頂。仙ノ倉山の偉容を背景に。

つづく